湿度が及ぼす印刷への影響とその対処
印刷工場が取り組むべき重要な環境整備の一つ湿度。目に見えないが故に割と軽視している工場は多いのではないでしょうか?
世界的に見ても日本の湿度の高さは上位に入るほどで、そんな日本で印刷という作業を行う以上湿度トラブルを避けて通るのは不可能です。
本記事では湿度が印刷にどのようなトラブルをもたらすのかそして原因、解決法についてまとめようと思います。
目次
印刷に適した湿度
当たり前ですが湿度は年中安定しているわけではありません。よりよい製品を作り上げるため、作業をスムーズにこなすために印刷に適した湿度を保つ必要があります。
日本の平均湿度は60%~70%ですが印刷に適した湿度は50%~60%とされています。
余談ですが、インフルエンザなどを予防できる湿度は50%前後、ドライアイや肌にいい湿度は60%前後と印刷工場の適湿は意外と人が暮らす上で最適な湿度を保っていたりします。
印刷用紙と湿度の関係
印刷工程で湿度の影響が出てくるのは用紙です。
主に紙は親水性の植物繊維を原料として作られています。したがって水分の変化に敏感であり湿度の変化にも敏感であるという事になります。
湿度が高い(水分が多い)と紙は水分を吸収し膨張、逆に湿度が低いと水分を放出し収縮します。
この湿度による用紙の変化が印刷作業に大きな影響をもたらすのです。
湿度が高いときの影響
では湿度が高い時にはどのような影響が出るのか。
例えば製紙工場から印刷工場といった具合に湿度の異なる環境に用紙を置いた場合、用紙は湿度により変化します。
ただ、印刷の現場で用紙を使用する場合、何百、何千と積み重なった状態で用紙を積んでいるため、変化するのは外気に触れる周辺部分だけとなり、湿度の高い場合は用紙が吸湿により伸びて周辺が波打ち状態になります。
この波うち状態になった用紙を使用するとどうなるのか。
印刷は圧をかけますので局部的に伸びて波打った用紙が印刷機械を通るとかなりの確立でしわがよってしまい不良品の原因となります。
何百枚単位での不良印刷が発生する事態に陥ることとなり、用紙を買いなおさないといけなくなるため余計に原価がかかってしまいます。
この波うち現象は主に梅雨時期に発生しやすくなりますが、湿度の低い冬場でも気温の低い野外から暖房の効いた室内に入れることにより冷えた用紙に水分が吸い寄せられ波打ち現象が発生する場合があります。
湿度が低いときの影響
冬場など湿度が低いときはどのような影響がでるのか。
湿度が高い時とは逆に用紙の水分が放出されてしまい用紙が収縮して反り返ったりカールしてしまう(タイトエッジ)状態になってしまいます。
タイトエッジになった用紙は印刷機械を通すことが非常に困難になります。
皆さんは経験ありませんか?カールした用紙などをコピー機やプリンターで印刷しようとしたけど上手く機械を通ってくれない。
印刷機械とプリンターの給紙の原理は違いますが、印刷機械はエアーで紙をさばきながら吸い口で一枚一枚用紙を吸い給紙していくため、反り返った紙の場合均等に吸い口が用紙にあたらず給紙出来なくなってしまいます。
また無理に通そうとすると紙詰まりを起し、最悪の場合はインキローラーに用紙が巻きついてしまいローラーの清掃をしなければならない状態になってしまい本来数分で仕上がる予定の印刷物が上記のようなトラブルの発生により数時間掛かってしまったりと大幅な効率ダウンにつながるためタイトエッジは非常に厄介な状態です。
静電気
上記2点は湿度による用紙の変化で起こるトラブルを説明しましたが、もう一つ湿度の低下が招く最大のトラブル静電気。
恐らく印刷オペレーターが悩まされる最大の問題といっても過言ではないんじゃないでしょうか。
では静電気が発生するとどんなトラブルが発生するのか説明していきたいと思います。
見当不良
印刷に携わったことが無い方からすると何のこと?という感じだと思いますが、見当は印刷する上で非常に重要な要素です。
簡単に説明すると印刷というのは用紙に対して1ミリの狂いも無く印刷していくのが普通です。例えばコンピューター用の印刷物であったり、印刷後の工程である断裁や2色目を刷り込んだりと1ミリの狂いが不良品につながるためです。
実際、静電気が発生すると用紙が印刷機械に張り付いた形となり印刷機械の性質上用紙に対して一定の印刷が出来ずバラつきのある印刷になってしまいます。主に薄い紙などで発生しやすく一度静電気が発生すると対処が難しく製品を仕上げるまでに非常に時間がかかってしまいます。
裏移り
静電気によるトラブルその2裏移り。
印刷物は給紙台からフィーダーボードを通りブランケットを通って排紙台へ重ねられていきます。
この時必要以上にインキを出していれば静電気の影響が出なくとも乾いていないインキが用紙の裏に付いてしまう裏移りが発生してしまいます。
なので裏移りが発生しないよう常に印刷物に適したインキを調整しつつ印刷を行っておりますが、静電気が発生すると適量のインキであっても排紙台に置かれた紙同士がくっついてしまうため裏移りが発生してしまいます。
特にコート紙によく見られる現象です。この裏移りは印刷後で無いと確認が出来ないため印刷が終わって裏を返してみれば裏にべったり移っている。という最悪の状態になってしまう事もあります。
用紙が揃わない
静電気によるトラブルその3用紙が揃わない。
印刷機械を通った用紙は排紙台に積み上げられていきます。
この時静電気が発生してしまうと用紙が綺麗に揃わずバラバラに積み上げられてしまった状態となり、本来不要な紙を揃えるという作業が追加されてしまいます。また排紙台には積み上げられた紙の高さを感知するセンサーが付いており自動的に台が下がっていく仕組みになっていますが、静電気によってバラバラに積み上げられた紙だと正常な高さを感知できずどんどん台が下がり続けたり下がらなかったりとトラブルの原因になります。
オペレーターの精神状態
上記で挙げた湿度による影響、紙の通りが悪くなったり、不良品が出来てしまったりと印刷においての湿度管理の重要性がわかってもらえたかと思いますが、一番の問題はオペレーターの精神状態が悪くなることだと感じています。
印刷に限らずどの製造業でも言えることだと思いますが、オペレーターの精神状態というのはそのまま製品に反映されますので、作業が上手く進まない。何度も何度も失敗する。そんな状況の中だとオペレーターも人間ですので次第にイライラしてしまいます。ストレスを溜めた状態で作業をすると本来のパフォーマンスを発揮できずクオリティの低下を招いてしまいます。
会社の理解
湿度による印刷への影響は効率低下や不良品に繋がるので湿度管理は必要不可欠です。
しかしオペレーターの技術や対策だけでは限界もありますので、やはり会社が理解し環境整備をすることで初めて乗り越えられる問題だと思っております。それほど湿度管理というのは厄介な問題であるという事です。
湿度対策
上記のトラブルを防ぐ為に様々な湿度対策の設備があります。
湿度計、加湿器、除湿機それらを使いこなし湿度管理をすることは非常に効果的ではありますが、やはりコストが掛かってしまいます。そこで当社ではどう対策をしているのか、先代のオペレーター達が悩まされその都度考え、現在働く私達に残してくれた唯一無二の解決方法をご紹介したいと思います。
まとめ
いかがだったでしょうか?
目には見えないがじわじわと影響を及ぼす湿度。湿度を甘く見ていると必ず痛い目を見ることとなります。
印刷に携わる者として徹底した湿度管理を行いスムーズな作業に取り組めるようこれからも気をつけていきたいと思います。